紙の「企画」がデジタルでどう変わる? デジタルコンテンツ企画のプロセスとデータ活用
紙媒体で長年編集に携わってこられた皆様にとって、「企画」は編集業務の中核をなす重要な工程でしょう。どのような読者に、どのようなテーマで、どのような切り口のコンテンツを届けるか。この企画の巧拙が、その後のコンテンツの成否を大きく左右することは、紙媒体でもデジタルでも変わりません。
しかし、デジタルメディアにおけるコンテンツ企画は、紙媒体とは異なる考慮事項や、活用できる新しいツール・データが存在します。本記事では、紙媒体での企画経験をお持ちの編集者の方々が、デジタルコンテンツの企画プロセスを理解し、その特徴を掴むための基本的な考え方やデータ活用について解説します。紙媒体での知見を活かしつつ、デジタルならではの視点を加えることで、より効果的なデジタルコンテンツ企画が可能になります。
紙媒体とデジタル、企画の共通点と相違点
まず、紙媒体とデジタルコンテンツの企画における共通点と相違点を整理してみましょう。
共通点:
- ターゲット読者の設定: どのような人に読んでもらいたいか、その読者が何に興味を持っているかを深く考える必要があります。
- テーマ・コンセプト設定: 記事全体を通して伝えたい中心的なメッセージや、企画の根幹となるアイデアを設定します。
- 構成・ストーリーテリング: 読者が情報を理解しやすいように、情報の順序や流れを組み立てます。
- 目的の明確化: そのコンテンツを通じて何を達成したいのか(情報提供、認知度向上、購買促進など)を定めます。
相違点:
- ターゲット設定の精度と手法: デジタルではアクセス解析ツールなどを用いることで、より詳細な読者像(デモグラフィック、興味関心、行動履歴など)をデータに基づいて把握できます。紙媒体の読者アンケートや販売データに加え、行動データが重要な要素となります。
- 情報収集・分析の幅: Web上の検索トレンド、ソーシャルメディアでの話題、競合サイトの分析など、リアルタイムな情報や膨大なデータを企画に活用できます。
- コンテンツ形式の多様性: テキスト、静止画に加え、動画、音声、インフォグラフィック、インタラクティブコンテンツなど、多様な形式を選択し組み合わせることができます。
- プラットフォームの特性: Webサイト、ブログ、SNS、メールマガジンなど、配信するプラットフォームによって、適したコンテンツの長さ、形式、トーンが異なります。
- 効果測定と改善: 公開後もアクセス数、滞在時間、コンバージョン率などのデータをリアルタイムで測定し、その結果をもとに企画やコンテンツを継続的に改善していくことが前提となります。紙媒体の増刷や改訂とは異なり、迅速な対応が可能です。
デジタルコンテンツ企画の主なプロセス
紙媒体の企画プロセスを基礎としつつ、デジタルならではの要素を加味した企画プロセスは、概ね以下のステップで進行します。
-
目的と目標の設定(KPI設定):
- コンテンツを公開する目的(例: サイトへの集客、ブランド認知度向上、商品・サービスの問い合わせ増加など)を明確にします。
- その目的を達成するための具体的な数値目標(Key Performance Indicator: KPI)を設定します。例えば、「公開後1ヶ月で記事へのアクセス数1万件」「記事経由での問い合わせ数10件」などです。紙媒体の企画における「売上目標」「部数目標」に相当しますが、より多岐にわたる指標が設定可能です。
-
ターゲット読者の詳細設定(ペルソナ設定とデータ分析):
- 想定する読者像を詳細に設定します。「ペルソナ」として、年齢、性別、職業といったデモグラフィック情報に加え、興味関心、抱えている課題、情報収集行動、ライフスタイルなどを具体的に描き出します。
- 既存のウェブサイトのアクセス解析データ(Google Analyticsなど)があれば、どのようなユーザーが訪問しているか、どのようなコンテンツに関心があるかなどを分析し、ペルソナ設定に役立てます。紙媒体での読者アンケートや読者層の肌感覚に加え、定量的なデータが強力な裏付けとなります。
-
テーマ・切り口の検討と情報収集(データ活用):
- 設定した目的とターゲット読者に対し、どのようなテーマや切り口のコンテンツが有効かアイデアを出し合います。
- ターゲット読者がどのようなキーワードで検索しているか(キーワードリサーチ)、どのような情報に関心があるか(SNSでの話題、競合サイト分析など)をデータに基づいて調査します。Googleキーワードプランナーや各種SEOツール、SNS分析ツールなどが情報収集に役立ちます。
- 紙媒体での豊富な業界知識や専門知識は、デジタルでも非常に価値の高い情報源となります。既存の知見と新しいデジタルデータを融合させましょう。
-
コンテンツ構成・形式の検討:
- テーマとターゲットに合わせ、どのような構成にするか、どのような情報要素を盛り込むかを具体的に検討します。紙媒体での構成力はここで大いに活かせます。
- コンテンツの形式(テキスト記事、ブログ記事、動画、インフォグラフィックなど)を選択します。ターゲット層が情報を取得しやすい形式、コンテンツの内容が最も伝わりやすい形式を選びます。例えば、複雑な手順の説明であれば動画、統計データの視覚化であればインフォグラフィックが有効かもしれません。
- Web記事であれば、見出し構成(h2, h3など)、内部リンクの配置、CTA(Call to Action: 行動喚起)ボタンの設置箇所などもこの段階で検討します。
-
実行計画と効果測定計画の策定:
- コンテンツ制作のスケジュール、担当者、必要なリソース(外部ライター、デザイナー、撮影など)を計画します。
- コンテンツ公開後、設定したKPIをどのように測定し、どのくらいの頻度で効果を検証するかを具体的に計画します。A/Bテスト(複数の異なる表現やデザインを比較し、より効果の高い方を採用する手法)の実施なども検討します。
データ活用がデジタル企画の鍵
デジタルコンテンツ企画において、紙媒体との最も大きな違いの一つは「データ活用の重要性」です。アクセス解析ツールから得られる様々なデータは、以下のような形で企画を強化します。
- ターゲット理解の深化: 既存読者の属性、サイト内での回遊行動、よく読まれているコンテンツなどを知ることで、机上の空論ではないリアルな読者像に基づいた企画が可能になります。
- ニーズの把握: サイト内検索キーワードや、どのような検索語句でサイトに流入しているかを知ることで、読者がどのような情報に関心を持っているか、どのような課題を解決したいと考えているかを具体的に把握できます。
- 効果予測と最適化: 過去のデータから、特定のテーマや形式のコンテンツがどの程度の反響を得られるか予測しやすくなります。また、公開後データを見ながら、タイトルやリード文の修正、構成の変更といった最適化を迅速に行うことができます。
- 新しい企画の発見: アクセスが伸びている意外なコンテンツや、特定のページからの離脱が多い箇所などを分析することで、新たな企画のヒントや、既存コンテンツ改善のアイデアを得られます。
紙媒体で培われた編集者の「勘」や「読者への深い理解」は、デジタルでも非常に価値のあるものです。これに、データが示す客観的な事実を組み合わせることで、より説得力があり、かつ効果に繋がりやすいデジタルコンテンツ企画を実現できます。
紙媒体の企画経験をデジタルに活かす
紙媒体で培われた企画力は、デジタルコンテンツ企画においても強力な武器となります。
- 読者視点: 読者が何を求め、どのように情報を理解するかを深く考える力は、デジタルでもそのまま活かせます。
- 構成力: 複雑な情報を分かりやすく整理し、読者を飽きさせずに最後まで読み進めてもらうための構成力は、Web記事やその他のデジタルコンテンツでも非常に重要です。
- リサーチ力: 企画に必要な情報を多角的に収集し、その信憑性を見極める力は、Web上の情報過多な環境でこそ真価を発揮します。
- コンセプトメイキング力: 漠然としたアイデアから、魅力的な企画へと昇華させるコンセプト設計力は、デジタルコンテンツを際立たせるために不可欠です。
デジタル企画においては、これらの編集者としての基礎力に加え、データに基づいた分析力や、多様なデジタルフォーマットへの理解を深めていくことが求められます。
結論
紙媒体の編集者にとって、デジタルコンテンツの企画は、慣れ親しんだプロセスに新たな要素(データ分析、多様な形式、プラットフォーム特性など)が加わるものと捉えることができます。紙媒体で培った読者理解、構成力、リサーチ力といった強みを活かしつつ、アクセス解析データやキーワードデータといったデジタルならではの情報を積極的に取り入れることが、デジタル企画を成功させる鍵となります。
まずは、既存サイトのアクセスデータを見て読者の行動を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。紙の企画で培った経験と、デジタルデータという新しいツールを組み合わせることで、デジタルメディアの世界でも読者の心に響くコンテンツを企画できるようになるでしょう。デジタル企画は継続的な改善が前提となりますので、PDCAサイクルを意識しながら経験を積み重ねていくことが大切です。