紙とデジタルの編集術

デジタル編集チームの「回し方」:ワークフロー設計と協業ツールの選び方・使い方

Tags: デジタル編集, ワークフロー, 協業ツール, チームマネジメント, リモートワーク

はじめに:デジタル時代の編集チーム運営

長年紙媒体の編集に携わってこられた皆様にとって、記事や書籍を一つのチームで作り上げていく過程は、まさに編集の醍醐味の一つではないでしょうか。企画立案から執筆依頼、原稿の受け渡し、校正、デザイン指示、そして入稿・印刷へと続く一連のワークフローは、緻密な連携と管理によって支えられてきました。

しかし、デジタルメディアの普及と、それに伴う働き方の変化、特にリモートワークの一般化は、このチームでの「回し方」にも大きな変革をもたらしています。物理的な距離がある中で、いかにスムーズに情報を共有し、タスクを管理し、共同で作業を進めていくのか。これは、デジタル編集へと移行する上で避けては通れない課題です。

この記事では、紙媒体でのチーム運営の経験を活かしつつ、デジタル編集における効果的なワークフローの設計方法と、それを実現するための様々な協業ツールの活用法について解説します。紙媒体での「回し方」を知っているからこそ理解できる、デジタルならではのチーム運営のポイントを掴み、今後の編集実務に役立てていただければ幸いです。

紙とデジタルのワークフローの違いと共通点

紙媒体の編集ワークフローは、一般的に比較的直線的で、物理的な原稿の受け渡しや校正紙の確認など、工程が明確に区切られている傾向があります。一方、デジタル編集のワークフローは、同時並行での作業や非同期での情報共有、そして公開後の修正・更新が容易である点など、より柔軟で迅速な対応が求められる場面が多くなります。

しかし、根本にある「品質の高いコンテンツを、決められた納期までに作り上げる」という目標や、「誰が、いつまでに、何をすべきか」を明確にする必要性は、紙媒体でもデジタルでも変わりません。紙媒体で培った、以下のような知見は、デジタル編集チームの運営においても大いに活かせます。

デジタル編集においては、これらの紙媒体で培ったスキルを土台としつつ、デジタルの特性を理解した上で、ワークフローを再構築する必要があります。

デジタルワークフロー設計のポイント

デジタル編集におけるワークフロー設計では、特に以下の点を意識することが重要です。

  1. 可視化の徹底:

    • 誰がどのようなタスクに取り組んでいるのか、全体の進捗がどうなっているのかを、チーム全体でいつでも確認できるようにします。紙媒体での「進捗ボード」や「工程表」のようなものを、デジタルツールで実現するイメージです。
    • これにより、特定の工程で滞りが発生している場合や、誰かに負担が偏っている場合に、早期に気づき、対応することができます。
  2. 情報共有の効率化:

    • 必要な情報(企画意図、指示、素材、過去のやり取りなど)が、関係者間で迅速かつ正確に共有される仕組みを作ります。メールだけでなく、チャットツールやファイル共有サービス、タスク管理ツールなどを連携させて、情報があちこちに分散しないように工夫が必要です。
    • 紙媒体では物理的に原稿や資料を回覧していましたが、デジタルでは共有フォルダや共同編集ツールを使って、タイムラグなく情報へアクセスできるようにします。
  3. 標準化と自動化の検討:

    • 繰り返し発生する定型的な作業(例えば、入稿データの形式チェック、校正依頼の連絡など)について、可能な範囲で手順を標準化し、ツールによる自動化を検討します。
    • これにより、手作業によるミスを減らし、より創造的な編集作業に時間を充てることができます。

これらのポイントを踏まえて、チームの規模、コンテンツの種類、利用できるリソースに合わせて、最適なワークフローを設計していきます。まずは、現在の(あるいは理想の)デジタル編集プロセスをフロー図などに書き出してみることから始めると良いでしょう。

ワークフローを支える主要な協業ツール

デジタルワークフローを円滑に進めるためには、目的に合った協業ツールの活用が不可欠です。ここでは、代表的なツールとその役割をご紹介します。

  1. コミュニケーションツール:

    • 役割: チーム内での日常的な連絡、情報共有、簡易的な相談などを行います。メールよりも即時性が高く、特定のプロジェクトや話題ごとにチャンネルを分けることで、情報整理が容易になります。
    • 代表例: Slack, Microsoft Teams, Chatwork など
    • 紙との比較: 紙媒体では対面での打ち合わせや電話、FAXなどが中心でしたが、デジタルではこれらのツールが中心的な役割を果たします。
  2. タスク管理ツール:

    • 役割: 記事一本ごとの進捗管理、担当者、締め切り、現在のステータス(企画中、執筆中、校正待ち、公開済みなど)をチーム全体で共有・管理します。「誰が、何を、いつまでにやるか」を明確にします。カンバン方式やガントチャートなど、様々な表示形式があります。
    • 代表例: Trello, Asana, Backlog, Jira (より開発向け) など
    • 紙との比較: 紙媒体でのホワイトボードに貼られた付箋や、Excelなどで管理していた工程表をデジタル化したものです。ステータスの変更や担当者への割り当てがオンラインで簡単に行えます。
  3. ファイル共有・管理ツール:

    • 役割: 原稿データ、画像素材、参考資料など、コンテンツ制作に必要な各種ファイルを一元管理・共有します。バージョン管理機能があるものを選べば、誤って古いファイルを編集してしまうリスクを減らせます。
    • 代表例: Google Drive, Dropbox, OneDrive, Box など
    • 紙との比較: 物理的な書類のやり取りや、社内サーバーでの共有フォルダに近い機能です。外部の協力者とも安全にファイルを共有しやすい点が特徴です。
  4. ドキュメント共同編集ツール:

    • 役割: 複数のメンバーが同時に一つのドキュメント(原稿など)を編集したり、コメントを残したりできます。オンラインでリアルタイムに共同作業を進める際に非常に便利です。
    • 代表例: Google Docs, Microsoft Word Online, Notion (多機能ツール) など
    • 紙との比較: 校正紙を複数人で回覧し、それぞれが朱書きを入れていた作業を、デジタル上で効率的に行うイメージです。変更履歴も残るため、どの部分が誰によって修正されたかも追跡できます。

これらのツールは、単独で使うだけでなく、連携させて利用することで、より効果的なワークフローを構築できます。例えば、タスク管理ツールからチャットツールに通知を送ったり、ファイル共有ツール上のドキュメントをタスクに紐づけたりすることが可能です。

効果的な協業ツールの選び方と導入・活用のポイント

様々なツールがある中で、自チームに最適なものを選ぶためには、以下の点を考慮します。

ツールの導入にあたっては、いきなり全てを変えようとせず、小規模なプロジェクトや特定の機能から試してみると良いでしょう。また、新しいツールを使う上でのルール(「この情報は必ずチャットツールのこのチャンネルで共有する」「タスク完了したら必ずステータスを変更する」など)を明確に定め、チーム内で共有・徹底することが、ツールを定着させる鍵となります。

紙媒体での経験から、新しいツールやワークフローへの移行には、ある程度の時間と試行錯誤が必要であることをご存知かと思います。デジタルでも同様に、チーム全体で新しいやり方に慣れていくプロセスが必要です。焦らず、一つずつ改善を進めていく姿勢が大切です。

結論:紙の知見を活かしたデジタルチーム運営へ

デジタル編集におけるチーム運営は、紙媒体で培った編集者としての基本的な能力やチームワークの重要性を踏襲しつつ、デジタルの利便性や効率性を最大限に活用していくことが求められます。

ワークフローの可視化、情報共有の効率化、ツールの適切な活用は、リモートワーク環境下でもチームの生産性を維持・向上させるために不可欠な要素です。タスク管理ツールで全体の進捗を把握し、コミュニケーションツールで密に連携を取り、共同編集ツールで効率的にコンテンツを作り上げていく――これらのデジタルツールを使いこなすことは、これからの編集者にとって重要なスキルとなるでしょう。

紙媒体での編集経験で得た「良いコンテンツを作るためのチームの動かし方」という知見は、デジタル環境においてもきっと役に立つはずです。ぜひ、様々なツールを試し、自チームにとって最適なデジタルワークフローと協業スタイルを確立してください。デジタルでのチーム運営をマスターすることで、さらに多様なコンテンツ制作が可能になり、編集者としての活躍の場も広がっていくことでしょう。