紙とデジタルの編集術

紙媒体編集者のためのWebフォント入門:フォントの選び方、組み方、注意点

Tags: Webフォント, タイポグラフィ, フォント, デジタル編集, CSS

紙媒体の編集において、フォント選びやタイポグラフィはコンテンツの印象を大きく左右する重要な要素です。文字の大きさ、行間、字間、そして書体そのものが持つニュアンスを熟知し、誌面を美しく読みやすく「組む」技術は、紙媒体編集者の大切なスキルの一つと言えるでしょう。

デジタルメディアの世界においても、テキストはコンテンツの中核をなします。しかし、紙媒体とは異なり、読者が利用するデバイスやブラウザによって表示環境が大きく異なるという特性があります。この環境の違いから生じる表示の問題を解決し、意図したデザインや雰囲気を再現するために重要となるのが「Webフォント」です。

この記事では、長年紙媒体の編集に携わってきた方が、デジタルコンテンツにおけるフォントの扱いやWebフォントについて理解を深めるための入門として、Webフォントの基礎知識、選び方、基本的な使い方、そして利用上の注意点について解説します。紙媒体でのタイポグラフィの知見が、デジタルの世界でどのように活かせるのかも探っていきましょう。

Webフォントとは? システムフォントとの違い

まず、デジタル環境におけるフォントの表示について整理します。Webサイトやデジタルドキュメントの文字を表示する方法には、大きく分けて二つの考え方があります。

  1. システムフォント: 読者が利用しているデバイス(PC、スマートフォンなど)に最初からインストールされているフォントを使用して表示する方法です。Windowsであれば「メイリオ」や「游ゴシック」、macOSであれば「ヒラギノ角ゴ」などが代表的です。

    • メリット: 追加のファイル読み込みが不要なため、表示速度が速いという利点があります。
    • デメリット: 読者のデバイスにインストールされていないフォントは表示できません。したがって、指定したフォントで表示される保証がなく、代替フォントで表示されるため、デザインやレイアウトが意図通りにならない可能性があります。
  2. Webフォント: Webサーバー上に配置されたフォントファイルを読み込み、それを使って文字を表示する方法です。Google FontsやAdobe Fontsなどが代表的なサービスを提供しています。

    • メリット: 読者のデバイス環境に依存せず、指定したフォントで確実に表示させることができます。これにより、デザインの再現性が高まり、ブランドイメージやコンテンツのトーンを統一しやすくなります。紙媒体で「この書体で組む」という指定に近い感覚で利用できます。
    • デメリット: フォントファイルをダウンロードする必要があるため、サイトの表示速度に影響を与える可能性があります。また、利用にはライセンス契約が必要な場合がほとんどです。

紙媒体で特定の書体にこだわって制作するように、デジタルでも意図したデザインや雰囲気を表現するためには、Webフォントの活用が不可欠となっています。

紙のタイポグラフィの知見をデジタルに活かす

紙媒体の編集経験を持つ方であれば、フォントが文章の「読みやすさ」だけでなく、記事や雑誌全体の「雰囲気」や「格調」を決定づける要素であることをご存知でしょう。明朝体、ゴシック体、セリフ、サンセリフといった分類だけでなく、それぞれの書体が持つ字形、線の太さ、重心、そしてそれが組まれたときの「文字のツラ」や「ベタ組み」「カーニング」「行送り」といった概念に精通しているかもしれません。

これらのタイポグラフィに関する知見は、デジタルの世界でも大いに役立ちます。

Webフォントの選び方と「組み方」(CSSでの指定)

Webフォントを選ぶ際には、以下の点を考慮します。

WebフォントをWebサイトで利用するには、主にCSS(Cascading Style Sheets)を使って指定します。一般的な流れは以下の通りです。

  1. フォントファイルの準備: Webフォントサービスから提供されるコードを取得するか、自身でフォントファイルをサーバーにアップロードします。
  2. CSSでの定義: @font-faceルールを使って、フォントファイルの名前やパスなどをCSSで定義します。

    css @font-face { font-family: 'MyWebFont'; /* 任意のフォント名 */ src: url('mywebfont.woff2') format('woff2'), /* ファイルパスと形式 */ url('mywebfont.woff') format('woff'); font-weight: normal; /* フォントのウェイト */ font-style: normal; /* フォントのスタイル */ }

  3. 要素への適用: 定義したフォント名を、表示したい要素(body, h1, pなど)のfont-familyプロパティに指定します。複数のフォント名を指定することで、読者の環境に合わせて代替フォントを使用する「フォントスタック」を組むのが一般的です。

    css body { font-family: 'MyWebFont', '游ゴシック', YuGothic, 'メイリオ', Meiryo, sans-serif; /* フォントスタック */ } この例では、まず'MyWebFont'(Webフォント)を使おうとします。もし何らかの理由で読み込めなかった場合、次に'游ゴシック'、それがなければ'YuGothic'...と順番に試していき、最終的にデバイスにインストールされているゴシック体のシステムフォント(sans-serif)を使用します。紙媒体で「この書体がなければこの書体で」といった指示を出すのと似た考え方です。

Webフォント利用上の主な注意点

Webフォントは便利ですが、いくつかの注意点があります。

まとめ:紙の知見を活かし、デジタルの特性を理解する

紙媒体で培われたフォントやタイポグラフィに関する豊富な知識は、デジタルコンテンツの編集においても強力な武器となります。書体が持つ表現力、文章の可読性を高めるための工夫、情報の階層化といった基本的な考え方は、デジタルの世界でも共通しています。

Webフォントは、デジタル環境においてデザインの再現性を高め、意図したタイポグラフィを実現するための重要なツールです。紙媒体の編集経験を活かしつつ、Webフォントの技術的な側面(読み込み方法、パフォーマンス、ファイル形式、ライセンスなど)や、デジタル環境特有の表示上の課題を理解することで、より質の高いデジタルコンテンツを生み出すことができるでしょう。

Webフォントの世界は常に進化しています。新しいフォントサービスや技術(可変フォントなど)も登場していますので、継続的に情報を収集し、実践を通じてその可能性を探求していくことをお勧めします。あなたの紙媒体での編集経験が、デジタルの世界でも豊かな表現を可能にするはずです。